実例(1)印鑑が押されていない遺言書
2024年6月15日
最終更新日時 :
2024年9月14日
suzuran-legal
司法書士は、遺言に関して様々な経験をしています。その経験談をご紹介します。
「この遺言書で登記ができますか?」
便箋に書かれたその遺言書は、遺言者の自筆によるものと思われる本文及び日付が記載され、署名もされていました。 しかし、自筆証書遺言の重要な要件の一つである押印がありません。
遺言書の本体に押印がない場合でも、封印のために封筒の綴じ目に印鑑が押されていた場合や、封筒の氏名の下に印鑑が押されていた場合には、その遺言書は有効であるとする判例があります。
ところが残念なことに、今回の遺言書には、封筒のどこにも印鑑が押されていませんでした。質問者には、このような遺言書では登記できない旨をお答えしましたが、せっかく遺言書を残された方の気持を思うと、今でも残念な気がしています。
普通の契約書であれば、印鑑が押してなくても、自署さえしてあれば契約書としての効力が認められることを考えると、自筆証書遺言の要件はかなり厳格ですね。
なお昭和49年の最高裁判所の判例では、2年ほど前に日本に帰化した白系ロシア人の英文の遺言書を、印鑑がなくても自筆証書遺言として認めました。
しかし、これは極めて特殊な例ですから、私たちには参考にはならないでしょう。
また印鑑の代わりに拇印や指印を有効とする判例があるようですが、一方で拇印を印鑑として認めなかった判例もあります。
自筆証書遺言を書くときは、基本ルールを守って、忘れずに印鑑を押しましょう。