実例(4)遺言書さえあれば
司法書士は、遺言に関して様々な経験をしています。その経験談をご紹介します。
亡くなったAさんは3度結婚していました。最初はイギリス人女性と結婚し、2度目・3度目は日本人女性でしたが、3度のお相手それぞれに子をもうけていました。
私は、遺言執行者ではなかったので、登記手続き以外の権限はありませんでしたが、3度目の奥さんに懇願され、窓口役となりました。
イギリス人の子らは、幸いに、とても協力的でサイン証明など快く準備してくれたので助かりました。
大変だったのは、15年前に別れた2度目の奥さんでした。私の事務所にいつも相続人である娘さん(22歳位)にくっついてやってきました。娘さんは、母親に全部まかせているといってほとんど口をききません。専ら話しの前面に出てくるのは母親で、次から次へと非常に細かい注文をするので、ほとほと閉ロしました。離婚してから15年も経ち、しかも思いもよらない多額の財産が転がり込む話なのですから、もう少し愛想があっても良いでしょうが、関係ない私に対してまで敵意を抱いているようでした。離婚に際してよほどの事情があったのでしょうか。
彼女は、全ての財産(Aさんは不動産の他、いくつかの証券会社と取引があり、投資信託など沢山の金融資産を持っていました)の詳細とそれらの評価を要求し、判をつく書類は全て事前にコピーを求めてきました。彼女が納得する評価を出すだけでも大変な作業です。一方、彼女からもらいたい書類はというと、なかなか出してくれません。そんなこともあって、手続きが全て終わるのに半年くらいかかりました。
とにかく遺言がない限り、相続人个員の書類がそろわなければ手続きできませんから、どんなに高飛車に出られても、書類を頂くためには、ひたすら低姿勢にならざるを得ません。3度目の奥さんが私に窓口役を懇願されたのも無理からぬことでした。
遺言書があれば、このような 「お願い事」はいらなくなるのですから、子供をもうけた人が再婚したときは、絶対に遺言を残しておくべきだと痛感しました。