実例(6)相談しかねる遺言

遺言書

司法書士は、遺言に関して様々な経験をしています。その経験談をご紹介します。

懇意にしている弁護士の先生から、次のような自筆証書遺言に基づいて登記してほしいという依頼を受けました。遺言書の内容は、およそ次のようなものでした。

遺言書

  1. 私が他界せる後は、財産に関しては妻の〇〇に全て託するのもとする。
  2. 二男〇〇には、現在二男の家が建って居る土地を与えるものとする。
    永い間の心遣いに感謝する気持ちからです。

令和〇〇年〇月〇日

遺言者 〇 〇 〇 〇 ㊞

流石ご高齢の方らしく、言葉使いが古風で筆跡も流な ものでした。
さて、これで二男の土地の相続登記ができるでしょうか。
まず、1の「託する」とはどのような意味なのでしょうか?国語辞典では、「たのむ」、「あずける」、「ことづける」意味があるようですが、妻に相続分の指定や遺産分割の方法の指定を頼んだのでしょうか。ただ「託する」と書かれているだけで、登記実務でこのように解釈するのは無理があるように思います。そこで多少疑問はありますが、「託す」には、「あずける」意味もあるので、 ここでは「相続させる」意味に解釈して話を進めます。

次に、2の「与える」はどのような意味を持つのでしょうか?これは、「相続させる」つもりで書いたものと判断して問題ないと思います。
とすると、1で「妻に全て託す(相続させる)」のに、2で「二男〇〇に土地を与える(相続させる)」というのは相反した内容ですね。従って、この部分は1も2も無効と解釈できそうです。しかし、1 が最初にあって2が次にあるということは、1の「妻に全て託す」のが原則で、2の「二男に土地を与える」のはその例外だとも解釈できます。最高裁判所の判例で、遺言書は、「遺言者の真意を合理的に探求し、できる限り適法有効なものとすべきである。」とされていることからも、この遺言書の2を書いた遺言者の真意は、二男に土地を相続させることである、そう解釈すべきではないでしょうか。

ところが、相続登記をする登記所では、遺言書の形式的な表現に重点を置き、「1と2が並列に記載され、内容が矛盾する。この遺言書では、妻への相続登記も二男の相続登記もいずれも申請を受理できない。」といっています。
遺言書で登記できないのであれば、遺産分割協議をすればよいと思われるかも知れませんが、それができない事情があるのです。

現在、冒頭の弁護士の先生と対処方法を検討中です。もしも、上記遺言書の2の冒頭に 、「ただし」と3文字が加筆されていたら、2は1の例外であることが誰にでも分かり、問題なく登記ができたのにと思うと本当に残念です。

参考:【令和新版】誰でも作れる遺言書「レッツ遺言セット」
   神奈川県司法書士協同組合

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