実例(5)相続が済んで1年後、思わぬ連帯保証債務が

連帯保証債務

司法書士は、遺言に関して様々な経験をしています。その経験談をご紹介します。

3年程前のこと。76才だった水道工事店の親方が亡くなり、相続人から相続登記を頼まれました。遺産は、店と自宅を兼ねた土地家屋と200万円ほどの預貯金。遺産の全部を妻が相続するという、よくあるケースでした。

ところが、その登記を済ませて1年ほど後、娘さんから電話があり、「父が友人の連帯保証人になっていて、その債権者から3千万円を超える保証債務の返済を迫る内容証明郵便が届き、借りた本人に連絡しようとしたが数か月前から行方不明。父が親しくしていた仕事仲間から、父は他の借金の
連帯保証もしていたようだ。」とのこと。奥さんが相続した遺産は土地家屋を売っても2千万円程度で、他の保証債務の請求の可能性もあります。亡くなった時に知っていれば当然相続放棄をするケースです。

相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知ってから原則3か月以内に家庭裁判所に申し出なければならないのが民法の定めです。しかし亡くなった時は債務の存在を知らず、その後に多額の相続債務があると知った場合は、極めて限定的にですが、その債務を知った時から3か月以内に 一定の要件のもとに相続放棄をすることが認められる可能性があります。早速奥さんと子供全員が相続放棄の申立てをすることにしました。ところが配偶者と子が全員相続放棄をすると、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。そこで、亡くなった親方の兄弟たちにも相続債務のことを伝え、一緒に家庭裁判所相 続放棄の中立てに向かいました。家庭裁判所での事情聴取等の後、何とか全員の相続放棄が認められ、債務を免れることができました。

本件では幸いにも家庭裁判所が相続放棄の申述を受理してくれました。しかし家庭裁判所によっては、本件のように遺産分割協議を経て相続登記まで終了しているようなときは、すでに相続を承認したものとして相続放棄を受理しないことがあります。また仮に放棄を受理したとしても、これに納得しない債権者が放棄の無効を裁判で主張してくることも考えられます。

住宅ローンや通常の借金であれば、本人も家族も知らないようなことはまずありません。それに対して保証債務は、債務者が返済を滞らせない限り債権者からの催促もないので、保証人になったこと自体を忘れてしまいがちです。
保証人になったら、そのことを家族に伝えるなり、遺言書に書き残して、遺された家族が本件のような苦境に立たされることのないよう、配慮していただきたいと思います。

参考:【令和新版】誰でも作れる遺言書「レッツ遺言セット」
   神奈川県司法書士協同組合

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